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波の音が聞こえる場所で
第8章 取り調べと化した久須美の面接についての一部始終
 僕の消極的冒険の始まった原因の一つには間違いなく山名や権藤の存在がある。だが冷静になるんだ。原因なんてけつの穴の小さいことを言っている場合ではない。問題は、今現在の僕の状況があいつらに漏れてしまうことだ。一端漏れてしまうとあれやこれやの僕に向かってくる波状攻撃は止むことがないだろう。そうなると僕の冒険は終わりを迎える。冒険の終わりは……考える事すら恐ろしい。
 だから僕は念には念を入れて母に言った。このことを漏らしてはいけないと。このこと、それはすなわち、僕が河口の端のちょっと高いところにあるリサイクルショップで生きているということだ。
 ついでにバイト先の塾とスポーツジムの電話番号を母に調べてもらった。バイトで世話になっていても、電話番号を記憶しているのは僕のスマホだけだ。その記憶媒体であったスマホを僕は粉々にしたのだ。ちなみにスマホを踏みつけぶち壊した件については久須美には伏せている。そうなった理由を訊かれると僕の黙秘が黙秘でなくなるからだ。ベテラン刑事はそのへんを見逃さない。
 一通り母の愚痴を聞いて、それから落語の師匠(ついついこう言ってしまいたくなる)ではなく父の「バカ野郎」を聞いて、僕は電話を久須美に渡した。久須美は二分ほど電話で僕の母と話した後「それではお預かりします」と言って電話を終えた。
「預かる」と久須美が言ったのだから、僕の扱いはそんなに酷いものになることはないだろう、という僕の希望的観測は数時間後で打ち砕かれた。
 僕は店の電話を借りて塾とスポーツジムに電話を掛けた。もちろんバイトを辞めるということを伝えるためにだ。塾から直江の電話番号を教えてもらい、直江に連絡を取った。
「後任を頼む」という僕の願いを直江は条件を付けて引き受けてくれた。直江は僕にこう言った「子供たちの前で土下座ができるか?」と。僕は「できる」と答えた。土下座で許されるなら、僕は何度でも子供たちの前で頭を地面に擦り付ける覚悟がある。
 それを聞いていた久須美はこう言った。「債権者がまた増えたね」と。
 ほっとしてはいけないのかもしれないが、僕の心は大分軽くなった。そして久須美が僕にとても奇妙な質問をしたのだ。
「坂口君、最後に一つだけ訊いてもいいかな?」
「何でしょう?」
「君さ、幽霊見たことある?」
「……」
「なるほどね」
 僕の動揺した顔を見て久須美はそう言った。
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