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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

その日の夜、11時を過ぎて、誠一が寝床の中でドストエフスキーの原書を読んでいると、襖で隔てられた「次の間」に、人の気配がした。
「ご主人様。千勢でございます。まだ灯りが点いていましたので、お声を掛けさせていただきました。」
「ああ、千勢さん。こちらにお入りなさい。」 誠一がそう声を掛けると、襖が開き、寝間着に、綿入り半纏を羽織った千勢が、正座から立ち上がり、お茶の用意を載せた後藤塗のお盆を持って、「座敷」に入ってきた。薄紅の花柄をあしらったネル地の寝間着と、淡い黄色と緑の絣(かすり)紋の会津織で仕立てた綿入り半纏が、三つ編みのお下げ髪とも相まって、清楚な女学生の雰囲気を醸し出していた。
誠一は、掛け布団を脇に押しやってから、黒綿紗(くろ・めんしゃ)の寝間着の胸前を整えて<あぐら>に座り直し、千勢を手招きして、敷布団の脇に座らせた。

