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第1章 女中頭　幸乃（ゆきの）　～　「西片向陽館」の秘密

　「それよりも、女中たちはそれぞれ事情を抱えて奉公に来ておりますので、健（すこ）やかにお勤めが続けられるよう、日頃からの思いやりをお願い致します。例えばでございますが、女子（おなご）には、ひと月の間に、精を受けると孕みやすい時期があります。そのような時には、女中の方から気配りをお願いしますので、ご無理を仰らないで下さいませ。先ほどのようにお口でご奉仕させていただいたり、お求めがあれば、非番の女中や私が代わらせていただくことも出来ますので。」

　　誠一が　「先ほど、幸乃さんが＜大人になるという意味は、人に優しい気持ちで接することができるかどうか＞と言っていましたが、それを心して、ここで暮らしていこうと思います。」　と返事したのを聞いて、幸乃は、安堵した表情で深くお辞儀をしてから、手慣れた仕草で懐から薄懐紙を取り出し、誠一の唇に付いた紅を拭き取って、部屋を退いたのだった。

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