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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)
「ご主人様。今日は朝からずっとの鉄道旅で、お疲れでございましょう。直ぐに夕餉のお膳をお持ちできるよう支度ができておりますが、お風呂を先になさいますか。」
「そうですね・・・。まず夕餉にしましょう。実は、朝に持たされた弁当を早々に食べてしまった後は、本を読んだり居眠りをしたりで・・・、腹を満たしてから、風呂でゆっくり腰を伸ばしますよ。」
清は、 「かしこまりました。」 と言って、手早く台所と二往復ほどして、夕餉の膳を整えたが、最後に手火鉢の鉄瓶を外して小ぶりの鍋を掛け、そこから汁を椀に注いだ。 「ご主人様。ご実家の地方のお雑煮を作ってみました。出入りの八百屋のおかみさんが越後の方で、作り方を聞きましたが、見よう見まねのことで、お口に合いますかどうか。」
新潟の雑煮は、多くの野菜に、鮭と焼餅を入れる独特のもので、誠一は差出された椀に口をつけると、明るい声で、 「これは美味しい。鮭も良いものが入っていますね。」 と言いながら、清に微笑みかけた。