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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)
誠一は、雑煮の話をきっかけに清と話が弾み、問わず語りにその身の上話なども聞くことになった。母親は新橋で芸者に出ていて、母娘二人で暮らしていたが、二十年ほども前、清が尋常小学校を出るころに、その母親が病で亡くなった折りに、馴染みの客で、とある大会社の重役だった人の紹介で、この下宿に奉公に来たということだった。 「子供心に、<その人が私の父親ではないか>とも思ったが、今となっては確かめようもない・・・。」 と言いながら、清が一瞬見せた翳りのある表情に、誠一は、秘密めいた年上の女性の魅力を感じた自分に気付いて、思わず顔を伏せた。
夕餉の膳を片付けながら、清は 「お背中(せな)をお流ししましょうか。」 と問うたが、誠一は 「それよりは、ゆっくり湯に浸かったあとで、少し腰を揉んでくれませんか。年寄りじみて恥ずかしいですが。」 と求めた。 清は、 「お若くても、一日汽車に揺られれば、お疲れは当たり前のことでございます。それでは、後ほど。」 と、微笑みながら返事をして、押入れから着替えの丹前や下帯を出して誠一に渡してから、下膳していった。