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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)
誠一は、半時間ほども広い湯船に手足を広げていたが、その間、清の<十個の餅の話>が頭を離れなかった。同時に、下宿に入った日に、幸乃から、<女中たちはそれぞれ事情があって奉公にきているので、思いやりを持って接して欲しい>とか、<叔父上は、甥が世間知らずのまま実家の当主を継ぐのでは困ると考え、この下宿を勧めたのだろう>などと言われたことも思い出し、その意味が次第に分かってきた気がした。
誠一が部屋に戻ると、奥の「座敷」に寝床が整えられていた。布団から、温かみのある日干しの香りがした。うつ伏せに寝て、枕元の卓上スタンドを点け、留守中に届いていた文芸誌に目を通そうとしたが、長旅の疲れと夕餉の雑煮の満腹感に加えて、長湯をしたこともあり、直ぐに眠気をもよおし、知らず知らずのうちに、枕を両手で抱き込んで顎を載せた姿勢のまま、微睡(まどろ)みかけた。