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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)
【第2話】
昭和10年正月の下旬、東京では、乾いた北風と、抜けるように青い冬空の日々が続いていた。冷え込みの厳しい朝、本郷区西片町の屋敷町に佇(たたず)む高級学生下宿 「西片向陽館」の戸田良正の部屋では、女中の清が、朝餉の膳を運び込む前の支度をしていた。黒灰色の綿紬にたすき掛けの姿は、色香漂う美形の年増女中の、胸や腰の豊かさを際立たせていた。
戸田は、廃藩置県後に侯爵に叙せられた関東地方の旧藩主家の直系で、東京帝国大学工学部で土木工学を専攻し、一時休学して英国に留学した後、二年ほど前に帰国、復学していた。