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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)

 清は、廊下に面した「次の間」で、火起こしした炭を十徳から手火鉢に移し、さらに襖を開けて奥の「座敷」に入った。まだ寝床に潜っている戸田に 「ご主人様。そろそろお着替えの時刻かと。今朝はまた一段と冷えますね。電気ストーブをお点けしておきますね。」 と声を掛け、綺麗に揃えた学生服など着替えの入った長竹籠を枕元に置いた。

 その時、清は、枕元に一冊の粗末な表紙の薄い本が置かれているのに気付き、 「ご主人様。また、新しく手に入れられたのですか。お勉強熱心でございますね。」 と、それがごく日常のことのような淡々とした口調で言った。表紙には、かすれた印刷で<緊縛秘伝帳 図説三十六縄手>と書かれており、その上に大きな<発禁>の朱印が押されていた。

 「いやぁ、見つかったか・・・。清、今夜は少し早目に部屋に来てもらって、いつものように練習台をお願いしたいのだが。」

 「はい、かしこまりました、ご主人様。清が当番の時は、いつでも心得ておりますから、若い女中相手には、およし下さいませね。」

 「よく分かっているよ。清のことは、本当に有難く思っているんだ。」
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