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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
すると、誠一の真顔が怖く見えたのか、たちまち良枝の顔に戸惑いの表情が浮かんだのを見て、誠一は、改めて優しい口調で微笑みながら、「今日、初めて会ったばかりだからねぇ・・・。良枝ちゃんも、僕がどんな人かなと思っているんだろうから、まずは、いろいろとお話をしよう。」と言い直して、文机の卓上スタンドを指さしながら、言葉を続けた。
「昼間に荷物の片付けを手伝ってもらった時、良枝ちゃんがこれを見て、綺麗だと、大きな声を出していたねぇ。ちょっと子供っぽい仕草で微笑ましかったよ。これは、叔父が若いころに、留学先のロンドンで買い求めたもので、僕に、一高入学のお祝いにと譲ってくれたんだ。」
良枝は、少し頬を緩めて、 「スタンドの笠のビロードが、見たこともないような艶(つや)のある青色で、素敵です。でも、私のことを、そのように見ていただいていたとは、気付きませんでした。恥ずかしゅうございます。」 と答えてから、両手で頬を押さえた。