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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
「そのように、やさしいお言葉をいただくと嬉しいです・・・。私は、もうすぐ十六になります。家は信州の小さな村の小作で、姉は製糸の女工に出ましたが、私は、その後の大不況で雇い口もなく、家が困窮しておりました。それを、地主の旦那さんが見かねて、学生時代のご友人の伝手(つて)を頼って、この奉公先を決めて下さったんです。殊に今年のお米は不作で、村では遊郭に入るお友達もいるのに、私は、こちらで皆様にお気遣いをいただきながらお仕事をして、十分なお手当てもいただいております。」
良枝は、そこまで話して、慌ててお辞儀をして 「すみません。やさしくお話をして下さるので、ついつい身の上話を・・・。」と謝ってから、さらに続けた。
「申し上げたかったのは、こちらでのご奉公は本当に有難いことだと思っております。それで、寝間でも、一所懸命にご奉仕させていただくつもりで、少しずつですが所作も習ってきました。まだ拙(つたな)いですが、今夜からよろしくお願い致します。」