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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
風呂場は、二、三人が一緒に入れるほどの造りだが、他には誰も入っていなかったので、誠一は、檜の湯船に大きく手脚を広げて腰を下ろした。脱衣室の電燈が、仕切りのガラス戸を通して風呂場を薄ぼんやりと照らし、湯船の奥に背もたれた誠一からは、静かに立ち上る湯気が逆光で見通せた。良枝が入浴を伝えたのか、直ぐに窓の外から、湯加減を訊く風呂焚きの女中の声がした。浴槽の端に上下二つの鋳物パイプの口があり、外の薪釜に繋がる、新式の設備のようであった。誠一が<ぬる目のこのままでいい>と言うと、ほどなく女中の気配は消えた。