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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
誠一は、下宿への引越しに加えて、その日のうちに、女中の寝間での奉仕の秘密を聞いて驚き、更に、その女中たちと濃密な経験をしたこともあって、翌日になっても気持ちが落ち着かず、さしもの若い体に疲れも感じて、夕刻に大学の講義から戻った後は、部屋で文芸誌を読んで静かに過ごした。
夕餉の後、お膳を片付ける良枝に、<今日は寝間には入らなくてよいから>と伝えると、良枝は一瞬硬い表情をみせたが、直ぐに微笑みを作って 「かしこまりました。」 と、返事した。誠一は、女中頭の幸乃から<女中には節度をもって、やさしく接してほしい>と言われて、漠然と<寝間での奉仕も、そうそう度重ねてでは嫌がられるだろう>くらいに思っていたので、良枝の表情も特に気には留めなかった。
数日が過ぎ、土曜日になった。通常であれば午前中だけある講義が、休講になっていたため、誠一は前夜、良枝に<朝餉はずっと遅くてよいから>と言い置いて、明け方前までドストエフスキーの原書を読んでいた。目覚めた時には、晩秋の昼前の低い日差しが、書院窓の障子に柔らかく当たっていた。