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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
幸乃は、そこまで一気に話すと、懇願の表情で笠井の顔色をうかがった。しかし、笠井は、直ぐには返事をしなかった。幸乃の陰に隠れて震えている、貧しい家から奉公に来た十五、六の娘の、初めての手ほどきをするということは、そういったことを好む性癖の者もいるとは聞くが、やはり常識的には背徳的なことだろうと思ったのだ。
幸乃は、笠井の躊躇を見透かすように、「殿方は、このようなことには、黙ったままで良いのでございます。」と言い置いて、良枝を残したまま退室した。笠井は、下宿生と女中たちがお互いに思いやりと節度を持って接している、この「西片向陽館」の暮らしぶりを気に入り、もう六年間も長居をしているだけに、幸乃が言いたいことは以心伝心で分かった。それは、<皆で穏やかな共同生活を営むためには、それぞれが出来る範囲で役割を果たす>ということだろうと、自分を納得させた。