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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
笠井は、良枝の不安をなるべく和らげようと、静かな口調で 「幸乃さんは行ってしもうたが、心配することはありゃあせん。いきなり押し倒したりはせんでの。良枝ちゃんは、こうして男と二人きりで部屋にいることにも慣れんのじゃろ。先ずはそこからじゃ。もう少しこっちに来て、一緒に音楽でも聴いて、少しは気を楽にせんかの。」 と、声を掛けた。
良枝は、下を向いたまま、両手を畳に突いて、正座の膝を滑らせ、ほんの少しだけ笠井に近付いた。それを見た笠井は、立ち上がって電気蓄音機のレコードを入れ替え、良枝のところまで近付いて、その横に<あぐら>に座った。 「このレコードは、関谷敏子という歌手での。ブラームスの子守歌というんじゃ。穏やかな曲じゃけぇ。まあ、聴いてみんさい。」 と言いながら、肩を寄せると、良枝は肩をすぼめて、さらに身を固くした。