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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝

 脱衣場で、良枝は笠井の背中に回って、かいがいしく丹前を脱がせて籠に入れた後、自分の綿紬を脱いだ。そして、襦袢の腰ひもを外して四つ折りにすると、入室遠慮の合図として、入口の木戸の取っ手に掛けた。そこまでは、女中のお姉さんたちから聞いていたとみえて、戸惑う様子もなく手順を踏んでいたが、襦袢を脱ぐ段になると、恥ずかしそうに笠井に背を向け、動きを止めた。

 それを見た笠井は、下帯を取って、手拭いを肩に掛け、先に浴室に入って洗い椅子に腰かけた。そして、脱衣場との間を仕切るガラス戸越しに、 「先ずは掛け湯をして、背中を洗(あろ)うてくれんかの。」 と、良枝を呼んだ。笠井が静かに待っていると、良枝が湯文字を腰に巻き、胸を腕で隠しながら、内股でそろそろと入ってきて、湯船の傍(かたわら)に立った。
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