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脳内妄想短編集
第3章 束縛愛
彼が顔をあげる。
あたしは遙斗にコーヒーを差し出した。まだ開けてない、ブラックの方を。
「買ってきた。飲む?」
緊張はしていたが、そんなものは微塵も出さずに言う。
「どーも」
缶コーヒーを受け取った手が止まる。
「俺……ブラックはちょっと」
「あれ、ブラック飲めないんだっけ? ごめん、ブラックしか飲めないって、勘違いしてた」
「それ、理恵さんだよねー」
彼は笑う。
慌てたフリをしてみたが、本当は知っていた。理恵がブラックしか飲めない。遙斗は砂糖入りのやつしか飲めない。これはカラオケの時、さりげなく持ち出しておいた情報だ。そして、あたしが理恵と遙斗の好みを勘違いしたふりをして、彼にブラックを差し出したのも、薬を入れたコーヒーを、彼に飲ませるためだった。
「なら、こっちあげるよ。一口飲んじゃったけど」
「え、いいの? 杏子はブラック平気?」
「うん、あたしはどっちでも」
「じゃあ貰う。遠慮なく」
彼はもちろん怪しむこともなく、あたしが持つ砂糖入りのコーヒーの方を受け取った。
一口、二口と飲む。