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脳内妄想短編集
第3章 束縛愛

 あたしは遙斗の手首にそっと触れてみた。温かい手。あたしの。
 理恵に対する苛立ちが、急速におさまってくるのを感じた。
 遙斗の寝顔を見つめる。微かに開いた唇に、指をそっと当てた。規則正しい息遣い。
 もうすぐあたしのものになる。あたしだけのものになる。
 あたしの唇は、自然と笑みの形に歪んでいた。
 これから罪を犯そうとする時。法に触れ、悪事を働こうとする時。誰かを傷つけようとする時。人はこんなにも穏やかで、優しい気持ちでいられるものなのだろうか。
 ――だからあたしは異常者だ。
 鼻歌を口ずさみ、さらに車の速度を上げた。ライトを上向きにする。車はどんどん、民家のない山の奥へと進んでいく。
 すべてが終わったら、死んでもいいとさえ思えた。
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