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脳内妄想短編集
第2章 水中レッスン

 すぐに唇を離す。彼は、一体何が起きたのかわからないという顔をしていた。
 ぽかんとしたその無防備な表情に、あたしはようやく我に返る。
 なんでキスなんてしちゃったんだろう。こんな場所と状況で、明らかに不自然すぎる行動だ。
 だけど昔から、そういう時に限ってあたしの頭はよく働き、饒舌になる。

「……水が怖いなら、もっと別のことを考えてればいいんだよ」
「……え?」

 言葉の意味が読み取れないらしく、彼は首をかしげた。
 あたしはもう一度、彼の唇に自分のものを押しつける。

「り、璃子さん……っ、なんで?」

 二度目でようやく何をされたか認識できたのだろう。彼の顔は真っ赤になった。口元を抑え、あたしの顔もまともに見れずに、上擦った声でそう問いかけてくる。

「水を意識するから、水が怖くなるんじゃないかなって。もっと別のことに意識を向ければいいんじゃない? キスとか」
「え、え? キス?」
「やっぱり嫌? ナイスアイディアだと思ったんだけど」

 あたしはさらにもう一度、唇を押しつけた。今度は少しだけ長めに。
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