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脳内妄想短編集
第2章 水中レッスン
「……はい」
彼の顔が、かすかに緊張の色を帯びる。それでも頷いて、水面を見つめた。だけど、じっと見つめたまま、再び硬直してしまう。茶色い瞳が、みるみる恐怖に歪んでいくのがわかった。
水中で硬直していた時と一緒だ。視線はプールの水面に向きつつも、脳裏によぎっているのは溺れた時の記憶なのだとすぐにわかった。
あたしはその顔を、じっと見つめた。怯えたその顔に、あたしの心臓はドクンと脈打つ。
せっかく落ち着いた彼の呼吸が、少しずつ速くなり始めた。せわしなく肩も上下し始める。過呼吸になりかけているのだとわかり、あたしは迷う。落ち着かせなければ。
それでも膝を曲げ、必死に水に頭をつけようとしている彼の背を、再びさすった。
はっとしたように、固まっていた彼の視線があたしを捉えた。
「……よっぽど怖い目に遭ったんだね。お風呂も最初入れなかったんでしょ? 真弓が言ってたよ。水、怖い?」
「いえ……」
否定しようとして、押し黙る。あたしから視線を逸らし、悔しげに瞳を細めてから、やがてこくりと頷いた。