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脳内妄想短編集
第2章 水中レッスン
「怖い、です」
「今も?」
「……はい」
彼の手が、あたしの腕をぎゅっと握ってくる。
それで気付く。今までずっと強がっていただけで、本当は怖かったんじゃないかと。プールに来るのも不安で仕方がなかったのかもしれないし、今だって、体を水に浸しているのは嫌なのかもしれない。考えてみればプールに入った時から、彼の手は冷たかったし、表情も強張っていた。
平然と大丈夫です、なんて答えるから、騙された。
「水から出る?」
「平気ですっ」
ムキになって、彼が答える。
「意地っ張り」
むっとした顔で何か言いかけた彼の唇を、再び塞いだ。
「ん……」
彼が鼻にかかったような吐息を洩らす。
あたしは迷っていた。ここまで水に対して恐怖心を抱いてしまってる彼に、一日でそれを克服させるなんて無理なんじゃないかと。無理やり頭を水中に突っ込んで慣れさせる荒療治も思いついたけど、それでどうにかできるとも思えなかった。
それに、これ以上彼に怖い思いをさせるのも気が引ける。あたしはもう一つの方法を、一か八か試すことにした。