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脳内妄想短編集
第2章 水中レッスン

 それはそうだろう。水中に引きずりこまれ、なかなか浮上させてもらえなかったら、水に恐怖を抱いたことのない人でさえ怖くなる。

「あ……待っ……」

 問答無用で再び水中へと引き込んだ。
 膝を曲げさせ、壁に彼の背を押し付けて、彼の肩を掴む。あたしがこの手を離さなければ、決して水面に顔を出すことはできない体勢だった。
 暴れるだろうと思っていたけど、彼は抵抗しなかった。口の中の酸素を逃がすまいと口元を引き結び、うつむいている。
 あたしは片手を彼の顎に添え、あたしの方を向かせた。彼が薄目を開ける。そこには恐怖と、どうしてこんなことをされているのかという、疑問のような色が見えた。
 あたしだってわからない。今だけ彼の全てをあたしが掌握しているのだと思うと、それだけで、異様な高揚感に満たされた。あたしが許しを出さなければ、彼は呼吸すらできない。
 十秒ほど経った時。ふいに彼が肩を抑えられてない方の手を、あたしの方に伸ばしてきた。もう限界なのかと思ったが、彼の表情はそこまで変わらない。あたしの頭に手をまわし、自分の方へと引き寄せた。
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