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こんなに晴れた素敵な日には先輩の首を絞めたい
第8章 第7話 平穏な日々の終わり
 いつもは仕事が終わっていても定時の16時50分までは必ず研修医センターで待機しているけど、今日は16時50分きっかりに2号館の1階に降りてタイムカードを通した。


 そのまま何も考えないようにして早足でJR皆月駅に向かい、ちょうど来ていた普通電車に飛び乗ってJR如月駅まで移動した。


 そして賢人の下宿に急ぎ、合鍵で玄関のドアを開けた。

 かすかな泣き声が聞こえてくるワンルームに入ると、賢人は狭い部屋を占拠するセミダブルベッドの上で布団にくるまって泣いていた。


「賢人! しっかりして、いやしっかりしなくてもいいから……とにかく話を聞かせて。私今日はここに泊まるから」
「みっちゃん……」
「辛かったよね、本当に大変だったよね。仕事なんてもう行かなくていいから、どうか無事でいて……」

 賢人がくるまっている布団をあえて強引に引き剥がし、セミダブルベッドに腰掛けると賢人は泣きながら私に抱きついてきた。

 しばらく洗っていないらしい部屋着姿のまま賢人は私にすがりついて号泣し、私は賢人の小太りな身体を抱きしめ返すと彼の頭を優しく右手で撫でた。


「患者さんが、患者さんが……」
「何かひどいこと言われたの?」
「違うんだ、患者さんが……死ぬんだ……」
「えっ……」

 賢人はそう口にすると両目から一気に涙を噴き出させ、そのまま必死で言葉を続けた。


「患者さんが毎日のように死んじゃうんだ。この前なんて、まだ38歳のお母さんが……白血病が急に悪くなって……」
「……」
「それだけじゃないんだよ。23歳の妊婦さんだったのに、再生不良性貧血のせいで子供を中絶しなくちゃいけなかった人だって。僕もう見ているのが辛いんだ……」
「賢人……」


 だからどうしたの、と思った。


 悲惨な境遇の患者さんに同情するのは分かるけど、お医者さんの仕事は一緒に悲しんで泣くことじゃなくて少しでも患者さんの力になってあげることでしょう。


 そんな気持ちのままで、あなたは膠原病内科医になりたいって思ってたの?



 頭の中に次々に浮かんでくる正論は、今の賢人にとって何の救いにもならない。


 だから、私には彼の悲しみをどうしてあげることもできない。
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