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こんなに晴れた素敵な日には先輩の首を絞めたい
第9章 第8話 こんなに晴れた素敵な日

私が泣き止むと先輩はベッドの上で身体を起こして、そのままごろりとベッドに仰向けに寝転んだ。
先輩の顔はいつもと違って無表情で、顔に当たると流石に危ないのでこの状況では鞭で叩いてあげられない。
「あのさ」
「何でしょう?」
「日比谷先生は、十分幸せだと思うよ」
「どうして?」
「優しくて、顔が綺麗で、しかもお医者さんでしょう。素敵な彼氏さんだっている」
「貧乏で、母親に殴られて育って、彼氏に隠れてこんなことしてるんですよ?」
「だから何? 全部お金で何とかなることでしょう?」
「……」
先輩は続ける。
「僕は実家が金持ちで、父親に甘やかされて育って、彼女はいないけど日比谷先生をお金で買ってこんなに嬉しいことをして貰ってるよ。だけど人格がまともで、顔がイケメンで、ちゃんと彼女がいる男の研修医には一生かかっても勝てない。どれもお金で買えないからね」
「痩せて整形すればどうですか?」
「手術って痛そうじゃん」
「何ですかそれ。痛いの大好きなんじゃないんですか?」
「確かに、日比谷先生が手術してくれるなら我慢できるかも」
「麻酔ならかけてあげますよ」
「っ……ははははは、日比谷先生面白すぎるでしょ! こんなに楽しい人だとは思わなかったなあ」
ベッドに寝転がったまま爆笑する嶋田先輩を見て、私は少しの間だけここがラブホテルであるという事実を忘れた。
こんなに心が安らいだのは、初期研修が始まって以来初めてかも知れない。
「そろそろまた叩きましょうか?」
「いや、先生も手が疲れただろうしもういいよ。僕はもうちょっと余韻に浸りたいからそこのカバンの財布から5万円持っていって。もっと取ってもいいよ」
「下手に恩を着せられたくないので5万円にしておきます。……今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ! また職場でもよろしくね」
先輩のカバンをまさぐって財布を取り出し、そこから1万円札を5枚取ると自分のポケットの定期入れに格納した。
先輩の顔を見ずにさっさと客室を出て、周囲に知り合いがいないか気をつけながらラブホテルを後にした。
こんなに気分が晴れた日はいつ以来だろうと思いながら、私は寒風が吹き抜ける11月下旬の街を歩いた。
先輩の顔はいつもと違って無表情で、顔に当たると流石に危ないのでこの状況では鞭で叩いてあげられない。
「あのさ」
「何でしょう?」
「日比谷先生は、十分幸せだと思うよ」
「どうして?」
「優しくて、顔が綺麗で、しかもお医者さんでしょう。素敵な彼氏さんだっている」
「貧乏で、母親に殴られて育って、彼氏に隠れてこんなことしてるんですよ?」
「だから何? 全部お金で何とかなることでしょう?」
「……」
先輩は続ける。
「僕は実家が金持ちで、父親に甘やかされて育って、彼女はいないけど日比谷先生をお金で買ってこんなに嬉しいことをして貰ってるよ。だけど人格がまともで、顔がイケメンで、ちゃんと彼女がいる男の研修医には一生かかっても勝てない。どれもお金で買えないからね」
「痩せて整形すればどうですか?」
「手術って痛そうじゃん」
「何ですかそれ。痛いの大好きなんじゃないんですか?」
「確かに、日比谷先生が手術してくれるなら我慢できるかも」
「麻酔ならかけてあげますよ」
「っ……ははははは、日比谷先生面白すぎるでしょ! こんなに楽しい人だとは思わなかったなあ」
ベッドに寝転がったまま爆笑する嶋田先輩を見て、私は少しの間だけここがラブホテルであるという事実を忘れた。
こんなに心が安らいだのは、初期研修が始まって以来初めてかも知れない。
「そろそろまた叩きましょうか?」
「いや、先生も手が疲れただろうしもういいよ。僕はもうちょっと余韻に浸りたいからそこのカバンの財布から5万円持っていって。もっと取ってもいいよ」
「下手に恩を着せられたくないので5万円にしておきます。……今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ! また職場でもよろしくね」
先輩のカバンをまさぐって財布を取り出し、そこから1万円札を5枚取ると自分のポケットの定期入れに格納した。
先輩の顔を見ずにさっさと客室を出て、周囲に知り合いがいないか気をつけながらラブホテルを後にした。
こんなに気分が晴れた日はいつ以来だろうと思いながら、私は寒風が吹き抜ける11月下旬の街を歩いた。

