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蛇の檻
第5章 ――誇りの試練
玲奈の肌に、冷たい液体が広がった。

琥珀色の雫は、指先からゆっくりと塗り込まれ、体温でじわりと馴染んでいく。

粘り気のある感触が、玲奈の感覚をじわじわと侵食していくようだった。 

――何かがおかしい。

胸の奥で、小さな警鐘が鳴る。

ゆっくりと、だが確実に広がる違和感。

熱が、身体の奥底から湧き上がってくる。

「……っ……」

玲奈は小さく息を詰めた。

それは、炎のように激しく燃え上がる熱ではなかった。

むしろ、静かに絡みつくような、じんわりと全身を包み込む熱。

指先が痺れ、血の巡りが変わるのを感じる。

意識の奥底で、何かが揺さぶられる。 

「どうした?」

低く、静かな声が響いた。

仮面の男――玄蛇が、玲奈を見下ろしている。

「フフフ、これはただの液体だぞ?お前の意志がしっかりしていれば、どうということはないはずだ」

玲奈は歯を食いしばった。

これは錯覚。
気のせいだ。
惑わされるものか――。

しかし、思考とは関係なく、身体が熱を持ち始める。

まるで、見えない糸が張り巡らされ、その網にじわじわと絡め取られていくような感覚。

動悸が速くなり、皮膚が敏感に反応する。

「……っ、はぁ……っ……」

玲奈は、無意識に浅く息を吐いた。
すぐに、喉の奥で息を飲み込む。

『こんなもの…。ダメ!玲奈、冷静になって!』
自分に言い聞かせる。
だが、体温の上昇は止まらない。

ひとつひとつの感覚が研ぎ澄まされ、何もかもが異様に鮮明に感じられる。

玄蛇は微かに微笑んだ。

「ほう、なるほど。」

玲奈のわずかな変化を見逃さず、観察するように目を細める。

「お前の中には、強い意志があるようだな」

玲奈は奥歯を噛みしめ、視線をそらした。

「こんなもの、効かない…」

そう言いかけた瞬間、またひとつ、熱の波が身体を駆け巡った。

心臓の鼓動がひときわ大きくなり、体がわずかに震える。

玄蛇はその様子をじっと見つめていた。

「フフフ…どうした?」

低く、満足げな声が落ちる。

玲奈は、もう一度深く息を吸い込んだ。

負けるものか。

目を閉じ、静かに耐える。

玄蛇は、そんな玲奈をしばらく見つめた後、仮面の奥で微かに微笑んだ。

「いいだろう。どこまで耐えられるか、見せてもらおうか」

宴はまだ終わらない。
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