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蛇の檻
第8章 ーー落ちる意識

玲奈の意識は、緊張と混乱の狭間で揺れていた。

理性が叫ぶ。

「抗え。ここで崩れるな。すべてを拒絶しろ。」

だが、それを押し返すように、何かが玲奈の内側から揺らいでいく。

身体が、自分の意思とは関係なく反応している。

「……っ……」

細かく震える指先。
熱を帯びた息遣い。
喉が乾き、唇が僅かに開く。

観客たちは、それを見逃さない。

沈黙の中、重なる視線が玲奈の体を舐めるように注がれる。
誰かが息を飲む音が聞こえた。
ざわめきが静かに、しかし確実に高まっていく。

――期待。

それが、この場に渦巻くすべてだった。

「……まだ耐えられるのか?」

玄蛇の声が、仮面の奥から玲奈に向けて落とされた。

玲奈は首を振る。

――まだ、負けない。

その意志を示すつもりだった。

しかし、そのわずかな動きでさえ、玲奈の体に広がる揺らぎを増幅させた。

鎖が軋む。

その微かな音にさえ、観客は反応する。
誰かが低く笑い、誰かがわずかに身を乗り出した。

「……っ……」

玲奈の目が揺れる。

玄蛇は、その変化を見逃さない。

彼は玲奈がどこまで耐えられるのか、冷静に測っていた。

どの瞬間に崩れるのか。
どこが限界なのか。

その一点だけを、残酷なまでに冷静に見極めようとしていた。

観客の熱が、さらに高まる。

玲奈のわずかな動きさえ、期待を煽る合図になっていた。

――もう、戻れない。

玲奈は、そう理解した。

しかし、抗う術は、もうなかった。

宴の熱は、さらに燃え上がる。
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