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蛇の檻
第9章 ――崩れゆく理性
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玲奈は、意識の奥で何かを感じていた。
遠くで水が滴る音がする。
冷たい空気が肌をなぞる。
――冷たい?
目を開けようとしたが、瞼が重い。
まるで、深い水の底から浮かび上がろうとしているようだった。
呼吸をすると、鈍い痛みが肺の奥に広がる。
喉が焼けつくように渇いていた。
――ここは……?
ゆっくりと意識が浮上し、薄暗い天井が視界に映る。
仄暗いシャンデリアの灯りが揺れていた。
次第に、“今の自分の状態” がはっきりしてくる。
枷は外されていた。
昨夜、四肢を拘束されていた感覚はなくなっていた。
しかし、自由になったわけではない。
――覆うものが、ない。
玲奈は思わず身体を丸めようとした。
だが、力が入らない。
肌をなぞる空気が、異様なほど鮮明に感じられる。
まるで、自分の存在そのものがむき出しになっているような感覚。
「……っ……」
腕をわずかに動かそうとするが、身体が重く、思うように動かない。
――何が、あった……?
記憶を探ろうとする。
だが、昨夜の出来事は霧がかったように曖昧で、断片的にしか思い出せなかった。
観客の視線。
響く熱気。
抗おうとする意志と、沈み込んでいく意識。
「っ……」
喉の奥で、かすれた声が漏れた。
その瞬間――。
「目覚めたか。」
低く、冷たい声が響いた。
扉が静かに開く音。
玄蛇が、漆黒の衣を纏い、仮面の奥から玲奈を見下ろしていた。
玲奈の指先が微かに震える。
――まだ、終わっていない。
玄蛇の冷たい瞳が玲奈を捉えたまま、静かに告げる。
「今夜も、宴は続く。」
玲奈の心臓が、強く跳ねた。
“第二夜” が始まる。
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