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第16章 『神の夜明け』

弦蛇は、その光景を見つめていた。
何も言わず、ただ立ち尽くして。
だが、胸の奥で渦巻くものがあった。

「玲奈が壊れるのが嫌だ」

その思いが、理性よりも先に込み上げる。
これは憐れみではない。愛でもない。
ただ、玲奈がこうして崇拝され、貪られていくことで、
彼の手の届かない存在になってしまうことが、たまらなく耐えられない。

男たちの声が耳障りだった。
彼らが玲奈を「俺たちのもの」と口にするたびに、
弦蛇の中で、何かが激しく軋む。

玲奈は、誰のものでもない。
ましてや、こんな男たちのものではない。

「玲奈は、俺のものだ」

言葉にした瞬間、弦蛇の身体は迷いなく動いていた。

──神を奪う。

弦蛇は玲奈の腕を掴むと、無理やり引き寄せた。
玲奈の細い身体が、彼の腕の中に収まる。
その瞬間、歓喜に酔いしれていた男たちが、一斉に振り返った。

「おい、何を──」
「お前、何をするつもりだ？」

弦蛇は何も言わない。
ただ、玲奈の腕を引き、強引に歩き出す。

玲奈は、抵抗しなかった。
それどころか、何の反応も示さず、ただ静かに彼に従っていた。

玲奈の瞳は、まるで何かを見ているようで、何も映していなかった。

男たちがざわめく。
怒りの声が上がる。

「返せ！」
「神を勝手に連れて行くな！」
「玲奈は俺たちのものだ！」

彼らは叫びながらも、誰一人として動こうとしなかった。
それは、弦蛇が放つ異様な空気 のせいだった。

彼の瞳は、冷えていた。
男たちの欲望とは違う、まったく別の執着 を秘めた瞳。
それに気づいた者たちは、本能的に悟った。

──この男の玲奈に対する執着は、彼らとは比べものにならない。

だから、誰も弦蛇を止められなかった。

玲奈は、引きずられるように歩きながら、
ただ静かに、弦蛇の腕の中で**「何か」を見ていた。**

それは、彼の顔なのか。
それとも、彼の奥底にあるものなのか。
玲奈自身にも、もうわからなかった。

ただ──

この男が「神を奪った」ことだけは、確かだった。