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好色なる一族
第3章 誤算
大五郎は海老原佳代子が待つ松の間に入った。佳代子は和服姿で座布団の上で正座して大五郎が入ってくると深々と両手をつき畳に頭をつけた。

「よしてくれ、佳代子さん。頭を上げて」
大五郎は佳代子の前に敷かれた座蒲団の上に正座した。
ゆっくりと頭を上げた佳代子にはかつての面影はなかった。でっぷりと太り、顔も大福のように広がっていた。あまりにも変貌してしまって大五郎は言葉を失った。

「それで、新会長におなりに?」
「はい、父は心臓が悪く入院しまして医者からもう仕事は無理と言われました」
「それはお気の毒に。お父さんにはいろいろ世話になったんだ」
「いえいえ父の方こそ、大岩様によくしていただきました」

「わざわざ、ご丁寧な挨拶、ありがとう」
大五郎は1分でも早く終わりにしたかった。せっかく香の前で勃起していたものが、すっかり元に戻っていた。
「実は先生にお願いがあります」
「何だろう?」
「ゴールデンウィークの商店街のお祭りで・・・少しばかりご寄付を」

こんな女に金はやりたくないが・・・、まあ商店街の会長だから仕方ないか。
「何だ、そんなことか?」
大五郎はほっとした。こんな女とは頼まれても寝たくないからな。大五郎は指1本を立てた。100万円のつもりだった。
「できれば20万ほど・・・」
佳代子は指1本を10万円と勘違いしたようだ。
「わかった。20万円寄付しよう」
「ありがとうございます」
佳代子は深々と頭を下げた。

「おい、筑前、筑前」
筑前が廊下を速足でやってきた。
「何でございましょう」
「商店街に20万寄付するから、帰り際に佳代子さんに渡して」
「かしこりました」

「私、本当は先生の所に来るの怖かったです」
「何故?」
「だって最近週刊誌で書かれてるじゃないですか。大岩さんの性加害問題。もし関係を迫られたらと思うと・・・」
絶対にあるわけないよ、あなたとは。大岩は大声で笑った。
「根も葉もない嘘八百だ。訴えるのも面倒でほったらかしにしておるんだがね」
「それでいいと思います。言いたい人には言わせておけばいいと思います」

佳代子は筑前から20万円を受け取り上機嫌で帰って行った。
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