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1995 Winter 俺の初体験の相手は32歳
第5章 導かれし者
時間を掛ける訳にも行かないので、Tバックのワイン色とグリーンのショーツに、キャミソール、ニットのワンピースを手に持って、玄関で深呼吸した。フェミニンな香りを鼻孔を広げて吸い込んだ。

32歳の一応、人妻の独り住まいの部屋に籠る女性特有の薫りを感じた…。

名残惜しいが、俺は玄関ドアを閉めて、鍵を掛けて、自分の部屋に戻った。

鍵を開けて自分の部屋に入った。換気扇がフル回転で、籠っているニオイを外に出していた。

「持ってきたよ」

俺は、美濃里に声を掛けた。ベッドメイクをしてくれていたらしい。

俺の声に反応して振り返った美濃里。カラダに巻いていたバスタオルがヒラリと落ちた。慌てることなく、

「着替えるわ」

と、俺から、俺が持ってきた自分の服を手に取り、ショーツを広げて、

「これにしたの?Tバックとか、好きなの?」

と、尋ねる美濃里。

「あまりに綺麗に片づけてあったから、最初に手に取った二つを持ってきただけ」

俺は言い訳をした。実際、そうなのだから、ウソではない。たまたま、それがTバックだったというだけ…。

「というか、前野さんってTバックとか穿くんだって驚いたよ」

俺は素直に感想を伝えた。

「あの綺麗に畳んであるのは、これも含めて、新品」

美濃里が笑った。たしかに、洗濯したような形跡はなかった…。でも、あんなに多数のショーツが必要なのか疑問だった。それに、ブラジャーも同じような感じだったし…。ショーツとブラジャーのセットもあった…。

たしかに、穿き古している感じのものと、まったく使用感のないものに分かれているように感じた。

「そうなんですね。どうしてなんですか?せっかくあるのに?」

俺が尋ねると、

「でも、古いのよ。これも、含めて。結婚するときに買ったのよ。結局、結婚してから使うことはなったけど…。そして、再就職して、ここに引っ越すときに捨てようと思ったけど、もったいなくて、持ってきたけど着ないまま。でも、これ、夫が選んだのだから、結局、着ることはないのだけど」

と、美濃里が苦笑いしながら話した…。自分を置き去りにして失踪した男が結婚前に買った、その男の好みの下着ということらしかった…。だから、地味な美濃里に似つかわしくなかったのだと、理解できた。
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