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1995 Winter 俺の初体験の相手は32歳
第10章 上書き保存
「今も…」

俺はそれだけを言葉にした。そのあとの言葉は、さすがに憚れたし、もし、美濃里が頷いたとき、どうすればいいか、俺には明確な答えがなかった…。

「利用されただけだと、頭ではわかっているのよ…。実際、海外逃亡にパスポートが必要だった。新婚旅行に行くためと、申請して、自分だけ…」

思い出したのか、言葉に詰まりながら、

「『成田離婚』って最近、言うじゃない。それに近いのかな…」

と、絞り出すように声にした美濃里。そう、この頃から、成田離婚という言葉を耳にするようになり、1997年冬には、『成田離婚』というドラマがあった。

「成田離婚か…」

俺はそれだけを言葉にした…。まだ、当時の俺にはリアルな言葉ではなかった。そもそも、22歳。結婚するということすら、リアルではなかった。

「そう。わたし、両親が離婚して、施設で育ったから、結婚式もしなかった。夫から、『二人だけで海外で式を挙げる』と言われて、それでいいと思った。人並みの結婚式なんてできなのだから、二人だけがいいって…」

言葉を濁し、涙を流し始めた美濃里。俺はなんと声を掛けていいのか戸惑うだけで、情けない話だが、何も言えなかった…。

「それも、夫の中では計算済みだっただと思うわ。係累がいないから、わたしさえ説得できれば、何とでもなると…」

そうかもしれない…。悪知恵が働く男に、翻弄された美濃里が哀れに思えた。

「やっと、一人じゃなくなる。人並みになれるって思ったのに、気が付いたら、一人だった。成田エクスプレスに乗って、一緒に行ったのに、『手続きしてくる』と言って、わたしを残していなくなった…。ホノルル行の飛行機のチケットをわたしに渡して、自分は、マニラ行の飛行機に乗ったと後で知ったわ…」

思い出したのか、泣き崩れる美濃里に…。悪いことを尋ねたと、後悔した…。

「ごめん、思い出させて…」

それだけが何とか言葉にできた。気の利いた言葉の一つも思い浮かばず、泣く美濃里の背中を撫でた。

俺に、何ができるのか…。辛い想い出を忘れることができる方法…。

「いいのよ…。普段から思い出して、こんな感じになっているから…」

俺を気遣っているのか、本当に、そんな感じなのか、わからなかった。
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