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1995 Winter 俺の初体験の相手は32歳
第10章 上書き保存
「言っていいのかしら?わたしのことを知りたい?さっき、『教えて欲しい』って言っていたけど」

美濃里が揶揄っているように思えた。

「からかっている?」

俺が尋ねると、

「違う。真面目に。わたしのことを知りたいの?本気で?」

美濃里が尋ねた。俺が頷くと、

「そう。多分、わたしのことを知ったら、佐久間くんは後悔するわ。『知らなかった方がよかった』って」

と、言って意味あり気に笑った。俺は返答に困った。そして、首を傾げて、美濃里を見た。

「あの人が、普通にエッチしたと思う?ヤクザよ」

また、意味あり気に笑った…。何かあるのはわかった。でも、ここで退けない。俺は、多少の怖さを感じたが、それ以上に、知りたかった。美濃里のことを。そして、行方不明の夫が美濃里としたエッチについて…。

しかし、躊躇した一瞬を美濃里は見逃してはいなかった。

「そうよね。ためらって当たり前。佐久間くんは、ノーマルだから。わたしはノーマルじゃないの。あの人に、アブノーマルにされてしまったから…」

俺を見る美濃里。少し恥ずかしそうに、そして、少し挑むような…。そんな感じがした。

「どういうこと?」

俺は尋ねた…。何をされたのか…。アブノーマル…。結婚して名字を変えることが目的なら、付き合っていたとしても期間は長くはないはず…。俺の表情を見ている美濃里…。

「不安なのね。だったら知らない方がいいかも。今まで通りでいいと思うわ。正常位だけでも十分に感じるし、69も覚えたでしょ」

美濃里は微笑んだ。それはそうだが…。

「前野さんは、それでいいのですか?俺は、美濃里さんの期待に応えたい」

それは、俺の本心だった。

「わかったわ。わたしがどういう経験をしてきたかだけ話すわ。それを聞いて判断して。わたしが求めるものに応えるか、応えないか」

美濃里が顎を少し引いて頷くように俺を見た…。

「わかりました。ただ、俺の覚悟も知ってください。できるなら、前野さんの旦那さんと同等か、それ以上になって、前野さんに残っている旦那さんの記憶を、俺との記憶で上書きして、忘れて欲しいと思っています。そして、俺の、俺だけの前野さんになって欲しい」

俺は、美濃里に訴えた…。美濃里は、嬉しそうに微笑み、

「ありがとう。難しいと思うけど、気持ちだけでも嬉しいわ」

と、俺を見つめた。
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