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さくらドロップ
第4章 この病を治す方法を誰か教えて
「……―――」
「ん?」

 私が一人で喋ってる中で、微かに彼の唇が動いた気がした。何かを呟いているような。
 気になって、極力体に触れてしまわないように、唇の方へ耳を近づける、無理な体勢に。ぐぐぐと、体の筋肉が軋む。零れる髪を手で押さえながら、呼吸も上手く出来なかったけれど、むくりと芽吹いた好奇心には逆らえない。

「――――」

 その声は小さくて、私の心臓の音ですら掻き消えてしまいそうだった。
 だから、聞き取れたのは、きっと本当に、偶然だったんだと思う。私の心臓の、脈動と脈動の僅かな空白の内に、その声はするりと耳へと入り、鼓膜を揺らし、文字を伝えた。

「      」

 それが、何を意味するのか理解して、体が反射的に飛び退いた。
 それは多分、聞いてはいけない事だったのだと理解して、思わず両手で口元を覆う。
 それでも彼からそんな言葉が出る事が信じられなくて、ただ呆然と、寝ている彼を見詰めた。
 ばくばくと、心音が煩い。体の血液が一気に沸騰したみたいに、体が熱かった。それなのに、指先はとても冷たくなっていく。
 何、今のは聞き間違い? でも確かに、確かにそう聞こえた。
 
 りな、というのは、女の人の、名前―――。

「っ――! 起きなさーい!」

 引きつり気味の咽喉を無理矢理こじ開けて声を張れば、彼の体が驚いたように跳ねる。それから暫くうんうん唸っていたが、観念したのか閉じていて瞼を開き、むくりと起き上がった。

「……なに」
「お昼ですよ! お昼ご飯の時間ですよ! お弁当なくなっちゃうよ!」

 眠気を無理矢理覚ますように、声を張り上げる。彼は少し迷惑そうに顔を顰めたが、直ぐに暢気な欠伸へと変化した。眠たそうに目を擦る。んーと酷く掠れた声を出しながら体を
伸ばして、また大きな欠伸を一つ。寝起きなせいか少し無防備な彼が新鮮である。

「…何時?」
「わかりませんが、とにかくお昼休みです」
「そう…。卵焼きは?」
「今日も変わらず一段丸々入ってます」
「ん、戻ります」

 それを聞いて満足したのか、彼は二度寝する事無く立ち上がる。服に付いた砂埃を適当に払って、梯子も使わずひょいと飛び降りてしまった。そしてそのまま、私を待つ事無く、一人先に屋上を出て行った。
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