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さくらドロップ
第1章 プロローグ
四月。年度の始まりとあって、学校内はどこか浮き足立っていた。部屋の作りは同じなのに、階が違うだけで感じでしまう違和感と、新入生という高揚感ある存在が、自然と雰囲気をざわつかせる。擦れ違う人混みの中に混じる、制服を着せられている初々しい新入生の姿。私も入学当初はあんなだったかなぁと、去年もやった感慨を、今年もしみじみと深く深く思わせる。
でもそれだけ。
部活の勧誘に忙しい友人たちは、今年の新入生はアタリだと、口を揃えるけども、当たろうが外れようが私には全く関係がない。帰宅部の私に、後輩なんてものはできないであろうし、委員会の参加も皆無であるからして、新入生の生徒と知り合いになるなんて機会はそう巡ってこない。自分から積極的にお近付きになろうとも思ってない。交友関係は同級生で事足りている。同学年に転校生でもくれば話は別だけども。
兎にも角にも、全く興味がなかった私が、友人の誘いに乗って、新入生の教室を訪れることになったのは、本当に偶然だった。もしもの話をしたらキリがないのは勿論承知している。それでも、やはり思ってしまうのだ。
もし、彼女が私に真っ先に相談しなければ。
もし、私が別に用事があって頼み事を断っていたら。
もし、新入生の教室に"彼"がいなければ。
私の人生が劇的に変わる、なんて事にはならなかったのかもしれない。
「ほら、あの子。ね、ね、かっこいいでしょ?」
そう嬉しそうに耳打ちしてきた友人の声は、既に届いていなかった。あの子と指摘された子が誰なのかも、私にはわからない。目配せで伝えようとしていたけれど、私の視線はある人に真っ直ぐ注がれていた。
賑やかな教室に、一人、たった一人きりで座る彼。窓際の一番後ろの席。窓に寄りかかるように背中を預けて、何やら必死に手を、指を動かしている。あの手の中にあるのは確実に携帯ゲーム機だ。
窓から入る風に煽られて、彼の黄金色の髪が柔らかく揺れる。整った顔立ちに、まるで闇を塗り固めたような深い黒眼。なんだかとても詰まらなさそうな表情を浮かべて、それでも一心に向かっているのはゲーム画面。
でもそれだけ。
部活の勧誘に忙しい友人たちは、今年の新入生はアタリだと、口を揃えるけども、当たろうが外れようが私には全く関係がない。帰宅部の私に、後輩なんてものはできないであろうし、委員会の参加も皆無であるからして、新入生の生徒と知り合いになるなんて機会はそう巡ってこない。自分から積極的にお近付きになろうとも思ってない。交友関係は同級生で事足りている。同学年に転校生でもくれば話は別だけども。
兎にも角にも、全く興味がなかった私が、友人の誘いに乗って、新入生の教室を訪れることになったのは、本当に偶然だった。もしもの話をしたらキリがないのは勿論承知している。それでも、やはり思ってしまうのだ。
もし、彼女が私に真っ先に相談しなければ。
もし、私が別に用事があって頼み事を断っていたら。
もし、新入生の教室に"彼"がいなければ。
私の人生が劇的に変わる、なんて事にはならなかったのかもしれない。
「ほら、あの子。ね、ね、かっこいいでしょ?」
そう嬉しそうに耳打ちしてきた友人の声は、既に届いていなかった。あの子と指摘された子が誰なのかも、私にはわからない。目配せで伝えようとしていたけれど、私の視線はある人に真っ直ぐ注がれていた。
賑やかな教室に、一人、たった一人きりで座る彼。窓際の一番後ろの席。窓に寄りかかるように背中を預けて、何やら必死に手を、指を動かしている。あの手の中にあるのは確実に携帯ゲーム機だ。
窓から入る風に煽られて、彼の黄金色の髪が柔らかく揺れる。整った顔立ちに、まるで闇を塗り固めたような深い黒眼。なんだかとても詰まらなさそうな表情を浮かべて、それでも一心に向かっているのはゲーム画面。