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さくらドロップ
第1章 プロローグ
 ‥‥、うん、なんかちょっと劇的な雰囲気を出したいのに、その手に持ったゲーム機が邪魔なんじゃないのかな。そこは別にフィルター掛けて見えなくしてもいいんじゃないかな。
 それでも、そんな姿でも、休憩時間に一人でひたすらにゲームをしている彼に、私は。

「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「え、あ、う、うん」
「どうしたの? ぼーっとしちゃって」

 怪訝そうに首を傾げる友人に、曖昧に笑ってごまかした。少し我を忘れていたようだ。気付かせてくれた事には感謝。
 ここで漸く、友人のいうかっこいい後輩を認識した。黒ですっきりとした短髪。少しきつめの目線に無愛想に引き結ばれた唇。確かにかっこいい、うん、ちょっと怖いけど。ああいうタイプが好みなのか。
 それよりも、気になってしまうのがさっきの子で、つい視線はそちらへ流れがち。いくら私が視線を送っても、ゲームに夢中な彼が顔を上げることはなかったのだけど。

「だからね、お願い」
「あー、うん」
「ホント! ありがとう! じゃあ、早速よろしく!」
「え、は、何? あれ、んん?」

 ぐいぐい背中を押され、何故か教室に侵入。何、と疑問符を口にしても、友人は期待込めた目で私を見つめるばかり。どうやら上の空の内に友人の頼み事を引き受けた形になったらしい。やばい、まずい、聞いてなかった。この教室に入って、何をどうしたらいいのかまったく見当がつかない。
 この学校は制服のリボンの色で学年がわかるようになっている。それは勿論新入生だろうと認識済み。他クラスならまだしも、他学年の侵入により、好奇の視線があちこちから注がれる。
 ああ、不味い事になった。助けてくれるはずの友人は、何故か扉の外から私を見守るだけ。当然見知った顔など一人もいない。友好関係を怠ったツケが、まさかこんな形で返ってくるなんて、誰も予想できないはずだ、私はできなかった。
 うん、とりあえず、ここは。
 
「ねー、君、名前なんてゆーの?」

 私の為に動こう!
 彼の席の前を勝手に陣取って、彼の机に頬杖ついて声を掛ける。
 結果、シカト。うん、予想済み。

「ねーねー、聞いてます? 私、漆原茜。茜って呼んでね。君は?」

 今度は勝手に名乗ってみる。それでも気にならないようで、目線はゲーム機に注がれたまま。指は忙しなくボタンを押し続けている。
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