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わたしの昼下がり
第39章 連れ込み旅館で(2)
 そう言えば…。記憶が徐々に戻ってきます。アクメに達しようとしているお隣さんの声が聞こえたとき、わたしもいよいよ強い快感がからだを走って耐えきれなくなり…。 

 「お隣に”親しみが湧いた”と言いましたが、もちろん優越感も感じているんですよ。ボクを受け容れているのは、素晴らしい名器なんですよ、ってね」

 『名器』という言葉は、褒め言葉なのか、それとも都合のよい道具という意味なのか、すぐにはわかりませんでした。それでも、△井の口調には品定めをするような響きはなく、なにか大切なものを自慢するような響きがありました。そのようなことを感じてわたしは素直にうれしいと思ったのでした。

 「いや、それにしても、今日も奥さんの新たな一面を知ることができました。ばあさんに礼を言わないといけないな」
 「新たな一面…」

 わたしはもっと正確に記憶を呼び戻そうとしました。△井は興味深そうな顔をして私を見ています。

 「ああ、いや、すみません。ボクが”新たな一面”と感じただけで、奥さんにとっては本当の奥さんなのですよね。奥さんが愉しんでいただいていただいているだけで、うれしいですよ」

 そのようなつもりはない…などと思っても、我を忘れてしまっているのですから、結局はそういうことなのでしょう。少なくとも夫との営みでこのようなことはないのですから。わたしが『名器』かどうかは知りませんが、これからも毎回確かな腕前でわたしを丁寧に扱ってくれる△井の手に掛かりたいと思いました。

 「まだ、ちょっと時間ありますよね?」

 △井が、床の間の電話機から受話器を取り上げ、帳場に時間の延長を告げるとタバコをもみ消しました。

 「観客はいなくなっちゃいましたが、構いませんよね?」

 △井が冗談めかして言います。団地では気になる周辺の人の気配も、ここは同じ秘密を抱えた『似た者同士』が集う場所なのだと思いました。

 「じゃあ、今度は…」

 △井がわたしの体に触れて後ろを向かせました。『本当の自分』に戻るにはふさわしい形だと思いました。『本当の自分』が満たされてさえいれば、満たす相手が誰かや、満たされ方はともかく、『良妻賢母』でもあり続けられるのです。わたしは、いそいそと向きを変えます。布団に手をつくと、背筋を反らせて迎える構えを取って△井を待ちました。
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