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愛の笛
第11章 葉子との再会
最後に紹介されたのが葉子で、視察団のリーダーは彼女を「白木次長」だと紹介してくれた。
もう次長級にまで登り詰めたのかと草薙は舌を巻いた。
かたや外務省の次長で
こちらはしがない協力隊の一員…
大学を首席で卒業した葉子と、かろうじて卒業した草薙。
同じ大学出身でありながら、こうも立場が違ってしまうものかと草薙はショックを覚えた。
視察団一行は現地の村にも多大なる贈答品を持ってきたようで
現地の村長は大層喜んでくれて、協力隊がこの地にやって来たときと同じように歓迎会を催したいと申し出てくれた。
一行も心得たもので、
小さな村でも歓待されれば喜んで参加し、ババンカ国への心証を良くしたいと考えていた。
視察団は協力隊のメンバーと違い、食べ慣れない食材も喜んで口にした。
決して口に合うはずもない微妙な味付けなのだが、
日本が交渉する上で優位になるのであれば笑顔で口にしていた。
その点だけは草薙をはじめ、越中も頭が下がる思いだった。
明日は首都に移動して外交会議をしなければいけないので、
酒は控えるのかと思いきや、彼らは勧められれば断ることもなく酒をあおるようにして飲んでいた。
案外と外交というものも体力勝負なのだなと
その点だけは草薙も頭が下がる思いだった。
スッと葉子が席を外して屋外に出ていく姿を見逃さず、
草薙も後を追うようにしてパーティ会場から抜け出した。
飲みすぎたのだろうか、酔いをさますかのように葉子は湿気を含んだ夜風に当たって佇んでいる。
「まさか、こんな辺鄙なところで君と再会出来るとは思っていなかったよ」
背後から声をかけると、葉子は驚く事もなく振り向いて「久しぶりね」と笑顔もなく答えてくれた。
「あまり草むらに近づかない方がいいよ
この辺りは夜になると毒蛇がウヨウヨしだすからね」
「えっ?蛇が潜んでいるの?」
蛇が苦手なのか、慌てて葉子は草薙に助けを求めるように近づいてくれた。
「まさか君が外交団の一員として来てくれるとは思ってもみなかったよ。それに次長という肩書きもついて、俺には手の届かない存在になってしまったな」
「単なる肩書きだけよ
ここに派遣されたのだって、将来を有望されたからじゃないわ。フランス語が話せるというだけで、いわば通訳みたいな扱いだし」
そう言って葉子は寂しそうに微笑んだ。

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