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愛の笛
第9章 再び海外へ
ポンっと軽やかな電子音を響かせエレベーターは4階フロアに到着した。
エレベーターの扉が開くときに前の廊下をスッと横切る女性の人影があった。
廊下をスタスタと歩いて遠ざかる女性の姿…
『えっ?葉子?』
髪をアップにし、濃紺のレディーススーツに身を包み颯爽と歩いて遠ざかってゆく女性…
その豊かなヒップの揺れに草薙は、それが葉子だと確信した。
声をかけて引き留めようとしたその時「草薙くん、何をしてるんだい、こっちだよ」と越中さんに急かされ、タイミングを失った草薙は仕方なく越中の背中を追いかけた。
パスポート申請窓口で必要事項を記載し、一連の流れ作業でボサボサの髪のまま写真を撮られてあっという間に特別なパスポートを受け取った。
「これさえあれば、最長5年は現地で活動できるよ」
越中は大事な宝物でも仕舞うかのように
スーツの内ポケットにパスポートを突っ込んだ。
「慌ただしいけど、今から羽田に向かうよ」
派遣される国と言うのがアフリカのババンカという小さな国だそうだ。
モロッコまで専用機で移動して、その後はババンカ国が用意してくれているバスに揺られて入国するとのことだった。
専用機と言っても小型のジェットで、シートはジャンボ機のエコノミーよりも座り心地が悪く、まるで荷物を運ぶかのような待遇だった。
「専用機というから皇室や政府のお偉方が乗るような飛行機を想像していましたよ」
「いくらなんでも、そこまで厚遇は受けられないさ」
さ、道中は長いんだ、今のうちに体を休めておいた方がいいぞと
越中さんは気遣ってくれたが、言われなくても深夜まで美穂を抱き、そのまま一睡もしていないのだから、ものの数分で草薙は眠りに落ちた。
「…くん、…草薙くん」
越中に体を揺すられてようやく草薙は目を覚ました。
「さすがに場馴れしているねえ、機内では爆睡だったね」
「えっ?もう到着ですか?」
どうやらぐっすりと眠ってしまっていて、道中の乱気流の揺れなども全く気づかなかった。
よほどひどい揺れだったのか、これから一緒に働く若者たちは憔悴しきった顔をしている。
「あと一時間ほどでモロッコだそうだ。そこからは一日半ほどバスに揺られなきゃいけないそうだよ」
そんなに遠くへ行くのか…
さすがの草薙もうんざりした。

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