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誰にも言えない、紗也香先生
第2章 3回目のレッスン
速足で、まるで逃げるように部屋へ戻った。
心臓が、鼓膜の奥で大きく鳴っている。
クッションにそっと腰を下ろし、脚をローテーブルの影に隠すように身を縮める。
頭は下がったまま。顔が、火照って上げられない。

そんな時だった。
「……先生」
勇くんの低い声。

パチン、と。
部屋の明かりがふっと消え、暗がりが静かに降りた。

そのあと、ぽっと灯る小さな光。
机の隅に置かれた卓上ランプが、ふたりの顔だけを照らしている。
身体は闇に溶け、心の距離だけが、光の中に浮かび上がる。

気づいてくれたの? わたしが、いま……どれだけ恥ずかしくて、心細くて……
私はそっと顔を上げる。
光に照らされた彼の瞳が、まっすぐこちらを見ていた。

互いの瞳が語り合う。
声にできない想いが、静かに部屋を満たしていた――。
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