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誰にも言えない、紗也香先生
第4章 彼の初めての「答え」
夜は、まだ静かに始まったばかりだった。
夢と現の境界線が、ゆらゆらと揺れる。
カーテン越しの月明かりが、ふたりの影を壁に映し出す。
その影は、あるときは波のように重なり、
あるときは風のように流れ、
ときに静かに、ときに激しく――
まるで言葉を持たない会話のようだった。

吐息は、浅くなったり、深くなったり、
まるで季節の風のようにリズムを変えながら、
二人の心を交わらせていく。

ときおり響く、水面のような音が、
静けさのなかに甘くにじみ、
そのたびに私は、自分の輪郭が溶けてゆくのを感じた。
絡み合う影は、寄り添い、混じり合い、
形を変えながら、一つへと近づいてゆく――
横に、後ろに、抱きしめながら、重なりながら。

勇くんの体温は変わらず力強く、若く、
私はもう、何度目なのかも忘れてしまうほど、
ただこの瞬間に、すべてを預けていた。
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