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誰にも言えない、紗也香先生
第2章 3回目のレッスン
彼は、ローテーブル越しに静かに腰を下ろした。
私の前に。まるで、審判のように。

「ち、違うの……っ、これは……っ」
息を整えながら、私は早口で事情を並べた。
おばちゃんが説明書を、英語が、鍵が……って。

けれど彼は、何も言わずに私を見ていた。
そのまなざしは、冷たいわけじゃないけれど――
何を思っているか、まるで読めなかった。

「……そんな目で見ないでよ」
そう言って、私はちょっと芝居がかった口調でむくれたふりをする。
けれど、その顔すら熱くて、目を合わせられない。

彼は黙って立ち上がり、台所へ向かった。
戻ってきた手には、冷たい水の入ったコップ。
「……飲めないでしょ」
そう言って、私の口元にそっとコップを近づけてきた。

その距離、わずか数十センチ。
彼の指と水の冷たさと、私の鼓動が混ざって、
時間が少し、静かに止まった気がした。

そして、耳元にふいに落ちる、彼の低い声。

「先生……そういうの、似合ってますよ」

え……?

耳が、熱い。
心が、一気に跳ね上がった。
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