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愛染明王の御前で
第6章 第六話

畳を汚してしまったら掃除が大変なことは梢にもわかる。
まだ梢が幼い頃に祖父母の家で畳にジュースをぶちまけて、祖父にたいそう叱られたことを覚えていたからだ。
「畳には目があるから、お掃除がたいへんなんだよ」と祖母は優しく言ってくれたが、畳は目なりに掃除しないと液体は中にすぐに浸透してしまって後始末が厄介だとこぼしていた。
「畳を張り替えたばかりだから、もしそんなことがあるとね…」
お寺の匂いだと思っていたのは、新しい藺草(いぐさ)の香りでもあったと、梢は今理解した。
線香の独特の香りに混じっていたものは、爽やかな若草色をした畳み表の香りだったのだ。
「ほ、本堂も、確認いたします」
あらかた廊下を拭き終えた梢は、本堂へ続く扉を開けた。
たしかにお香の香りに混じって青い香りがする。
眼下には真っ青な畳み表。
日本家屋に住んでいない梢にとってはすぐに気がつかない。
もしかしたら漏れた尿が落ちてやしないか、梢は廊下のときと同じように四つん這いになって畳を確認した。
自分のいた位置から逆算して進む。
まるで地面を這うムカデのように、右に左に蛇行しながら畳の表面を調べる。
これだけ広い本堂でも自分が立っていた位置はだいたい把握していた。
御本尊の前から緩やかな弧を描いて、トイレのある廊下へと続く扉へと移動したはずだ。
その軌道を再確認しようとしたときだった。
梢の尻が、誰かの手によって掴まれた。
まだ梢が幼い頃に祖父母の家で畳にジュースをぶちまけて、祖父にたいそう叱られたことを覚えていたからだ。
「畳には目があるから、お掃除がたいへんなんだよ」と祖母は優しく言ってくれたが、畳は目なりに掃除しないと液体は中にすぐに浸透してしまって後始末が厄介だとこぼしていた。
「畳を張り替えたばかりだから、もしそんなことがあるとね…」
お寺の匂いだと思っていたのは、新しい藺草(いぐさ)の香りでもあったと、梢は今理解した。
線香の独特の香りに混じっていたものは、爽やかな若草色をした畳み表の香りだったのだ。
「ほ、本堂も、確認いたします」
あらかた廊下を拭き終えた梢は、本堂へ続く扉を開けた。
たしかにお香の香りに混じって青い香りがする。
眼下には真っ青な畳み表。
日本家屋に住んでいない梢にとってはすぐに気がつかない。
もしかしたら漏れた尿が落ちてやしないか、梢は廊下のときと同じように四つん這いになって畳を確認した。
自分のいた位置から逆算して進む。
まるで地面を這うムカデのように、右に左に蛇行しながら畳の表面を調べる。
これだけ広い本堂でも自分が立っていた位置はだいたい把握していた。
御本尊の前から緩やかな弧を描いて、トイレのある廊下へと続く扉へと移動したはずだ。
その軌道を再確認しようとしたときだった。
梢の尻が、誰かの手によって掴まれた。

