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愛染明王の御前で
第2章 第二話

さっきの女性客のように生き生きとしたかったが、最近は気が重たかった。
アルバイト中にもLINEが飛んで来る。
スマホが鳴るのが苦痛だった。
そんな気持ちを抱えていたからこそ、あの客に羨望の眼差しを投げ掛けてしまったし、店主から諌められたような言わなくてもいいことまで言ってしまった。
異性との人間関係を悩む梢にとって、ここの花たちに囲まれることは癒しであった。
アルバイト中に鳴るスマホを、ときに苦虫を噛み潰すような顔で見ていた。
誰にも知られていないだろうと思っていたが、そんな梢のふとした表情を瑞鳳寺の住職はどこかで見たのだろうか。
「そ、そんなのが見えるんですか?あのお寺の住職さん」
「こらこら、そんな言い方するもんじゃないよ。ご住職は昔ね、テレビのワイドショーの心霊番組なんかにもちょこちょこ出ていた有名人なんだよ。そうか、その頃梢ちゃんはまだ生まれてなかったね」
20数年前。
ワイドショーが全盛期の頃、瑞鳳寺の住職はその能力を買われてテレビに引っ張りだこだったらしい。
そのせいか、除霊のためや祈祷に訪れる参拝客が今でもかなりいるという。
「悪い生霊が憑いてるように見えるから、ぜひ一度うちに寄越しなさい、って」
「えー、でも、お金とか掛かるんじゃないですか?」
「さっきご住職が『いつもお世話になってる橘さんの店員さんだからタダで診てあげるから安心しなさい』って言ってたよ」
「えっ?タダでいいんですか?あっ、でも、私ひとりで伺っても構わないんですか?店長はいつも『何か粗相があったらいけないから』って言うじゃありませんか」
「そうなんだけどね。本当なら僕も付き沿った方がベターだよ。でも、二人しかいない店を二人で空けるわけにはいかないしね」
「まあ、そうですね」
「ご住職がそう仰ってくださったんだから、いいと思うよ。礼儀作法には厳しいお方だけど、梢ちゃんもうちで働いてだいぶ経って言葉遣いも丁寧になったことだし、これを期に瑞鳳寺さんへの配達も任せられるかもしれないしね。いい機会だよ」
店主からそう説得され、梢は配達を兼ねて瑞鳳寺へとひとりで向かった。
アルバイト中にもLINEが飛んで来る。
スマホが鳴るのが苦痛だった。
そんな気持ちを抱えていたからこそ、あの客に羨望の眼差しを投げ掛けてしまったし、店主から諌められたような言わなくてもいいことまで言ってしまった。
異性との人間関係を悩む梢にとって、ここの花たちに囲まれることは癒しであった。
アルバイト中に鳴るスマホを、ときに苦虫を噛み潰すような顔で見ていた。
誰にも知られていないだろうと思っていたが、そんな梢のふとした表情を瑞鳳寺の住職はどこかで見たのだろうか。
「そ、そんなのが見えるんですか?あのお寺の住職さん」
「こらこら、そんな言い方するもんじゃないよ。ご住職は昔ね、テレビのワイドショーの心霊番組なんかにもちょこちょこ出ていた有名人なんだよ。そうか、その頃梢ちゃんはまだ生まれてなかったね」
20数年前。
ワイドショーが全盛期の頃、瑞鳳寺の住職はその能力を買われてテレビに引っ張りだこだったらしい。
そのせいか、除霊のためや祈祷に訪れる参拝客が今でもかなりいるという。
「悪い生霊が憑いてるように見えるから、ぜひ一度うちに寄越しなさい、って」
「えー、でも、お金とか掛かるんじゃないですか?」
「さっきご住職が『いつもお世話になってる橘さんの店員さんだからタダで診てあげるから安心しなさい』って言ってたよ」
「えっ?タダでいいんですか?あっ、でも、私ひとりで伺っても構わないんですか?店長はいつも『何か粗相があったらいけないから』って言うじゃありませんか」
「そうなんだけどね。本当なら僕も付き沿った方がベターだよ。でも、二人しかいない店を二人で空けるわけにはいかないしね」
「まあ、そうですね」
「ご住職がそう仰ってくださったんだから、いいと思うよ。礼儀作法には厳しいお方だけど、梢ちゃんもうちで働いてだいぶ経って言葉遣いも丁寧になったことだし、これを期に瑞鳳寺さんへの配達も任せられるかもしれないしね。いい機会だよ」
店主からそう説得され、梢は配達を兼ねて瑞鳳寺へとひとりで向かった。

