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愛染明王の御前で
第4章 第四話
そこからは上の空だった。
住職があれやこれやと講釈してくれるのだが、トイレに行きたい梢はそれどころではなかった。
愛想笑いと適当な相槌が精一杯。
どうしようかと思っているところに、先ほど梢が通ってきた廊下の扉が開いて、妙齢の女性が現れた。


「あなた、本山とのZOOM会議のお時間ですよ」


四十路を少し超えたくらいの年齢だろうか。
あなた、と呼ぶからには住職の妻なのは梢にもわかった。
梢とは打って変わったタイプの女性だ。
スラリとした上背に豊満な胸。
身体にフィットしたグレーのニットがスタイルの良さを強調している。
ボブが似合うくっきりとした目鼻立ちと厚ぼったい唇は、男女を問わず視線を集める美しさを備えていた。


「ああそうだった!ごめんね、梢さん、ちょっと失礼するよ。祈祷はその後でもいいかな?会議があるのをすっかり忘れていました」
住職はそう言って本堂を出て行った。
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