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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第21章 最期の言葉

 巫女はそんな混乱の真ん中を、おぼつかない足取りで歩いてくる。

 熱で弱り、鬼界の妖気を浴びた身体はふらつき、漆黒の衣が彼女の細い肩に重く垂れる。

「…………ぅ」

 巫女がぐらりとよろけた

 その瞬間、一瞬で移動した鬼王が彼女を抱きとめた。


 大きな手が彼女の細い腰を強く掴む。


「馬鹿が」


「……」


「何故此処へ来た…!」


 鬼の声が低く響く。


「…すみません」


 巫女は鋭い爪が肌に食い込みそうなほど強く抱かれた。


(震えている…?)


 鬼の腕が、微かに震えていることに気づき、彼女の胸が締め付けられる。


「すみません…あなたの大切な鏡を、持ち出しました」

「…っ…そんなコトはどうでも良い!」

「……っ」


 鬼が声を荒げた。

 モノノ怪たちは二人から離れ、遠巻きに見つめている。

 最凶の存在として君臨する鬼王がこれほど取り乱すのを、彼らは初めて見たのだ。


 (あの巫女はもう手遅れだな)

 唯一、大蛇(オロチ)だけは二人を観察し憫笑(ビンショウ)していた。

(霊力が強い者の中には妖気に耐性のある人間もいるが…だが鬼界に踏み入れたとなれば話は別だ。今だってそうとうな苦しみに違いない。じきに…肉体が崩れる)

 花街の空気が、緊張と静寂で張り詰める。


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