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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第21章 最期の言葉


 鬼に抱かれる巫女の顔は青白く、息は弱々しい。


「‥ハァッ‥‥ハァッ‥‥‥‥‥カハッ!」


 血を吐き出し、天哭ノ鏡が手から滑り落ちる。

 それを拾おうと伸ばした細腕を、鬼が掴んだ。


 パシッ.....


「…やめろ」


「‥‥‥まだ‥‥‥呪い が‥‥他の場所に」


「やめろと命じているのが、聞こえんか」


「‥‥‥」

  
 巫女の肉体が力を失い、心臓の鼓動が弱くなる。

 命の灯火が…徐々に消えゆく過程に入っていた。

 霊力の多くを解放したことでその過程は速まっている。彼女の肌は冷たくなり、瞳の光が薄れる。


 鬼にはどうすることもできなかった。


「──…」


 彼は無力だった。


 黄金の瞳が、苦しそうに巫女を見つめる。


 彼女の腕を掴む手に力を込めるが、彼女を救う術はない。彼の妖術には敵を支配し、惑わし、殺すコトができても……癒す力など無いのだから。


 鬼の胸に、無力が突き刺さる。


 牙が覗く口元が震え、黒い衣が彼女の血で濡れる。


 巫女だけが穏やかに覚悟を決めていた。


 だが彼女にも心残りがあった。


(結局わたしは、…あなたを独りにしてしまう)


 じわりと涙が滲む。


(なにか……なにか、あなたへ残せる物があればよかったのだけれど……っ)


 彼女はもう身体を動かせなかった。それでも考えて、彼の為に何かできないのかと探してしまう。


「か‥‥鏡に‥わたしの霊力を宿し、ました。コレを使えば他の呪いも‥‥祓えます、だから」


「──…いらん」


「でも」


「いらんと言っておろうが!」


 鬼は耳を貸さず、声を荒げる。


 彼女の命が消えゆくのを見ずにはいられず、しかし見たからといって…沸き立つのは苦しい感情ばかりであった。


 巫女の青白い顔
 弱々しい息
 血に濡れた唇が、胸を締め付ける。


 花街は静寂に包まれ、モノノ怪たちのざわめきも止まっていた。玉藻と影尾も、息を呑んで見守る。大蛇すら黙り込み、巫女の最期を冷たく見つめた。





 ....





 どうして、いなくなる?



 鬼は歯が鳴るほど強く噛みしぎり、顔を伏せた。






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