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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第23章 旅の夜

案内された木賃宿(キチンヤド)の部屋は、小さいながら小綺麗なたたずまいだった。
畳は新しく、ほのかに青い唐草の香りが漂う。部屋の隅には小さな火鉢が置かれ、炭が赤く静かに燃えている。
窓辺には竹の簾が下がり、春の夜風がそっと入り込み、部屋に置かれた素朴な木の机や、壁に掛けられた小さな掛け軸を揺らした。掛け軸には、淡い墨で描かれた桜の枝が春の風情を添え、部屋全体に穏やかな雰囲気が漂っていた。
窓の外からは、遠くの里山で鳴く虫の声が、かすかに響いてくる。
「……どうしてあなたまで来ているのですか」
巫女は困り顔のまま、畳に腰を下ろした。彼女の巫女服の緋袴が、畳に柔らかく広がる。
「お前がひとりで旅などしているからだ」
鬼王の声はどこか不満げだ。
「お前を狙う連中が、そこかしこに潜んでいたぞ」
「…っ…もしかして道中、ずっと近くにいましたか?」
「村を出た後からな」
「それ…っ」
巫女はハッと息を呑んだ。
(そういえば前の村からの移動中、危険な道もあったのに、野盗にも盗賊にも会っていません!)
嫌な予感がして見上げると、男はニヤリと笑みを浮かべた。
「殺してはおらんぞ?」
何故か得意げな様子で男は腰を下ろした。
髪をくくる紐を解くと、巫女と同じような長い黒髪がバサリと広がり、畳に落ちる。
濃紺の着物に織り込まれた雲の柄が、火鉢の明かりに映える。肩幅の広い背の高い姿は、部屋の狭さに一層際立った。

