この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
巫女は鬼の甘檻に囚われる
第7章 清めの水

ゆっくりと滝の直下に進むと、水の深さも増していった。ふくらはぎが隠れ、くびれた腰が沈む。透き通る肌を覆う黒髪が、水滴をまとい、水面に散らばっていく。
夜色の水の中へ…まるで彼女の身体が溶け消えていくようだった。
ザザーーーー
滝つぼまで着いた彼女が胸の前で手を合わせて目を閉じる。
冷たい水が彼女の身体を叩き、肌に残る鬼の感触を洗い流そうとする。
だが、心の奥に刻まれた恐怖と屈辱は、そう簡単には消えない。
彼女は気づかれぬよう、静かに涙を流した。水音にかき消され、滝の水と混じって頬を伝う涙──。
(神よ……鬼に敗れ、穢れた私をお許しください)
強い水流が打ち付けているというのに、彼女の佇(タタズ)まいは凛として微動だにしない。
そうやって滝の下で祈る彼女を、鬼は少し離れた岩場に腰かけ、退屈そうに眺めていた。
黄金の瞳が月を見上げ、長い白銀の髪が夜風に揺れる。彼の表情には、彼女の祈りや涙を理解する気配はない。
ただ彼女の清らかな姿がそこにあることだけが、彼の興味をわずかに繋ぎ止めているようだった。
「……ふん。清める、か」
鬼が小さく呟く。声には嘲りとも、感嘆とも取れる響きがあった。
彼は滝つぼに掌をかざして、鬼火をさらに明るく灯した。青白い光が水面の隅までを照らし、巫女のシルエットを浮かび上がらせる。
「お前がどれだけ表(オモテ)の汚れを落としたところで、ナカにいれた妖気はお前から離れん。無駄だ」
「……」
その言葉に、巫女は目を開け、鬼へと振り返った。
濡れた髪が頬に張り付き、滝の水滴が彼女の肌を滑り落ちる。彼女の大きな瞳には、びいどろのように様々な光が宿っていた。

