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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第7章 清めの水

 ゆっくりと滝の直下に進むと、水の深さも増していった。ふくらはぎが隠れ、くびれた腰が沈む。透き通る肌を覆う黒髪が、水滴をまとい、水面に散らばっていく。

 夜色の水の中へ…まるで彼女の身体が溶け消えていくようだった。


 ザザーーーー


 滝つぼまで着いた彼女が胸の前で手を合わせて目を閉じる。

 冷たい水が彼女の身体を叩き、肌に残る鬼の感触を洗い流そうとする。

 だが、心の奥に刻まれた恐怖と屈辱は、そう簡単には消えない。

 彼女は気づかれぬよう、静かに涙を流した。水音にかき消され、滝の水と混じって頬を伝う涙──。

(神よ……鬼に敗れ、穢れた私をお許しください)

 強い水流が打ち付けているというのに、彼女の佇(タタズ)まいは凛として微動だにしない。

 そうやって滝の下で祈る彼女を、鬼は少し離れた岩場に腰かけ、退屈そうに眺めていた。

 黄金の瞳が月を見上げ、長い白銀の髪が夜風に揺れる。彼の表情には、彼女の祈りや涙を理解する気配はない。

 ただ彼女の清らかな姿がそこにあることだけが、彼の興味をわずかに繋ぎ止めているようだった。

「……ふん。清める、か」

 鬼が小さく呟く。声には嘲りとも、感嘆とも取れる響きがあった。

 彼は滝つぼに掌をかざして、鬼火をさらに明るく灯した。青白い光が水面の隅までを照らし、巫女のシルエットを浮かび上がらせる。

「お前がどれだけ表(オモテ)の汚れを落としたところで、ナカにいれた妖気はお前から離れん。無駄だ」

「……」

 その言葉に、巫女は目を開け、鬼へと振り返った。

 濡れた髪が頬に張り付き、滝の水滴が彼女の肌を滑り落ちる。彼女の大きな瞳には、びいどろのように様々な光が宿っていた。


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