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大きなクリの木の下で
第4章 文豪 中岡清史郎

翌朝、美代子はハツラツとした元気一杯で「じゃあ、また遊びにくるわ」とルンルン気分で帰っていった。

残された静香は洗顔しようと洗面台の前に立って愕然とした。
まるで四十代のように老け込んだ顔をして、目の下にはどんなにメイクしても誤魔化せないクマがハッキリと浮かんでいた。

電車に乗っても出勤が億劫で、
何度も途中下車して仕事を放り投げてズル休みしようかと思った。

それでも気がつけば出版社の前に佇んでいた。

『滑稽だわ…ズル休みさえできない小心者だなんて…』

いつまでもボーッとその場に佇んでいると、「おはようございます!」と美代子と同じように元気ハツラツの竹本が背後から声をかけてきた。

『顔、見せらんない!』

振り向かずにペコリと頭だけ下げて、その場から逃げるように静香はそそくさと彼から立ち去った。

「えっ?あれっ?雨宮さん?!」

後を追いかけてくる竹本を振り払うかのように足早にエレベーターに乗り込んで、彼が乗り込む前に「閉」のボタンを押した。

『面と向かって彼の顔を見れない…』

老け込んだ顔はともかく、今、彼に見つめられたら大泣きしてしまいそうで、なるべく今日一日は顔を合わさないようにしようと決めた。
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