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遠い夏の続きを、もう一度
第2章 再会

部屋の照明は落とされ、ベッド脇のスタンドがほのかに光を灯していた。
それはまるで、月のような淡さで、まぶしさを嫌う夜のためにあった。
彼女はバスローブのすそを指先でつまみながら、何も言わずに私の隣に腰を下ろした。
湯上がりの肌がまだ火照っていて、その熱が私の肩にも伝わってくる。
窓の外には街の灯りが、にじんだ星のようにまたたいていた。
けれどこの部屋は、まるで切り取られた時間の中にあるようで、音も動きも、なかった。
「…ねぇ、」
彼女がぽつりとつぶやいた声は、あまりに小さくて、私は思わず顔を覗きこんだ。
「ほんとに、ただのお祝い…だったんだよね?」
目は笑っていた。でもその奥に揺れていたのは、迷いと、期待と、そして恐れだった。
「そう…だったはずなんだけど」
私は彼女の頬に指をそっと添えた。
そのやわらかさに、心がほどけていく。
バスローブのすき間から、白い肩がこぼれる。
一瞬、息をのむ。
それは何年も前、妹だった彼女が初めて見せた“大人びた”表情と、重なった。
唇が触れる。頬、まぶた、耳もと。
触れるたびに、彼女の息がわずかに震える。
「こわくない?」
問えば、彼女は首を横に振った。
「ずっと…こわかったのは、私じゃなくなることだった。でも今は──」
最後まで言わないまま、彼女は私の胸元に顔を埋める。
そのとき私は、言葉のない告白を、確かに受け取った。
指先が髪をなで、背中をたどる。
彼女はそっと目を閉じた。
そのまつ毛が震えるたび、私はこの夜が現実なのだと、ようやく信じられた。
──肌と肌のあいだに、言葉のいらない想いが、ゆっくりと流れていた。
どちらからともなく、バスローブがほどける。
空気が、さっと変わる。
湯気の余韻、微かな石けんの香り、布越しに触れるぬくもり。
そして──
言葉のいらない約束が、静かに交わされていく。

