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リクエストのラストワルツ
第1章 意外な出会い

「今、お仕事帰り?」
できるだけ自然な笑顔で冴子は慎也に放しかけた。
「あ、はい、びっくりしました」
まだ慎也は緊張した口調で応える。
「わたしも今終わったところ。 久松さんはこの近くなの?」
「はい、すぐそこの会社の寮にいます」
寮住まいということを冴子は初めて知った。
「自炊してるの?」
「はい。 明日は休みだからゆっくり作ろうかと思って」
かごの中の3枚におろしたサバとけんちん汁の具を見下ろしながら慎也は応えた。
「えらいわね、でも頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
「今度はいつだったかしら?」
「来月の10日です」
まだ1か月ほど先なことは冴子にはわかっていた。
「じゃ、お待ちしてますね」
冴子が話を終えようとしたそのとき、慎也が意を決したように訊ねた。
「あの… 三上さんもお近くなんですか?」
「ええ、車で5分くらいのところよ。 ここ帰り道なの」
隣にいた客の視線が気になって、そのときのふたりの会話はそれで終わったのだったが、それからというもの、同じような時間帯にまた会えるのではないかと思うと、買い物の新しい楽しみができたのである。
そしてその期待は思ったより早く実現した。

